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「どうにかしてやりたいもんだが」
不っ細工で無愛想で、誰にも相手にされなかったアタシをオヤジだけがいつも気にかけてくれていた。
2年前の巨大隕石落下が、そんな崖っぷちのアタシの転機になったのだ。
「お前、改名するか。話題性はあるし、一気にスターになるかもしれないぞ」
オヤジは自分のことのように嬉しそうに笑った。
当時の分不相応な『マリー』という名前を気に入っていなかったアタシは、即座に飛び跳ねて喜びを伝える。
『ラッキースター』と名付けられたその巨大隕石はアタシにとって、まさに幸運の星だった。
名前を変えただけで指名が入るようになった。
『不細工』は『ぶさカワイイ』に、『無愛想』は『ツンデレ』に。
デレた覚えなどないのに、店の客は本当に調子が良い。
何週間もしない内に、アタシは店のトップにのし上がっていた。
――そして、すぐまた暗転を迎える。
ラッキースターによる地球滅亡説が囁かれ始めるとすぐに、オヤジはアタシに名前を戻すかと尋ねた。
まだ地球最期の日が噂や予想の域を出ていなかった頃だから、当然アタシは大暴れして抵抗した。
その噂が噂ではなく確定事項となり、幸運の星が不幸の星に転落した時にはもう、アタシはこの名前を手離せなくなっていた。
「ラッキー、ラッキースター」
オヤジはアタシを呼ぶとき、必ず一度『ラッキー』で区切る。
アタシはその呼び方が好きだった。
他の名前では、もう呼ばれたくない。
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