14人が本棚に入れています
本棚に追加
「おじさん! ラッキーいなくなったって本当!?」
不意に店内に響いた大声は、近所のクソガキのタケル。
もう声だけ――いや、店のドアを乱暴に開ける音だけで分かる。
「あのブス猫、オレから逃げようなんていい度胸してやがる!」
しつけのなってない、口の悪いチビだ。
いつも大声でこんなことを言っているから、でこぼこコンビに誤解されたりする。
オヤジの眉間に皺が寄った。
膝を曲げて背の低いタケルと目線を合わせ、両肩に手を置く。
「ごめんなタケル。ラッキースターとは、きっともう会えないよ」
今までに聞いたことがないくらい、ひどく掠れた声だった。
「なんで、だよ……!」
タケルはオヤジの言葉に弾かれたように、
「あのブス、デブ、バカ、とんま、うすのろ、役立たず」
アタシの悪口を好き放題並び立てる。
――ボロボロと大粒の涙を落としながら。
みんなから嫌われて、疎まれて、恨まれて、地球が終わる日が確定してから誰ひとり寄り付かなくなったアタシを、唯一相手にした客。
アタシと一緒で、いつもひとりぼっちだったタケル。
泣くな馬鹿、男のクセに、格好悪い。
見ていられない。
恰好悪くてガキでいつもアタシをいじめるフリして構ってくれた、本当は弱虫で寂しがり屋で怖がりのタケルを。
頼りなくてちょっと抜けてて能天気で、だけどたまに恰好よくていつもアタシの味方をしてくれた優しいオヤジが。
ぎゅっと力強く抱きしめた。
――アタシはそれを見届けた。
これでようやくここから立ち去ることが出来る。
ゴメンなタケル。
ありがとうオヤジ。
あんたたちが、大好きだったよ。
もう、行かないと。
残念ながら、アタシも猫だから――ばいばい。
最初のコメントを投稿しよう!