第2話 野良猫

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どこに行ったんだ。 死ぬ時は一緒にと誓っていた片割れと、一時でも離れて行動したことが悔やまれる。 だがあの狂気の中には、どうしてもアイツを連れて行きたくなかった。 闇雲に探し回っていた俺を、不意に鼻をつく異臭が襲った。 前方からふらりふらりと俯いたまま近寄ってくる人間――ホームレスというヤツだ。 大嫌いな人間の中でも底辺の人種。 ああクソこんな時に、ついてねぇ! 方向転換、しようとした時だった。 聞き覚えのある声が、俺を呼ぶ。 産まれてこの方名前のない俺を、正しく呼ぶのはアイツだけだ。 立ち止まる。 振り返る。 異臭の根源である大きな男が、その場に片膝をついてしゃがみ込んだ。 声は、男の腹の中から聞こえた。 まさか。 ――一瞬本気で、アイツがホームレスに食われたのかと。 毛を逆立てて威嚇の姿勢をとる俺に向け、男は服の中から抜いた手を差し出した。 『やっと会えたね、おにいちゃん』 男の手から飛び降り嬉しそうに駆け寄ってきたのは、山から戻ってからずっと探していた妹だった。 『おじさん、ごはんくれた』 そう言われて見上げると、大男はまた服の中に手を突っ込んだ。 それから少し異臭のする湿ったパンくずをちぎって、俺たちの間に投げる。 『おじさんのお腹、とってもあったかかったよ』 ホームレスは、無言で元来た道を引き返していった。 『なあ』 『なあに? おにいちゃん』 名前のない妹が、くさいパンを旨そうに頬張りながら首を傾げる。 『――あいつも誰にも見られずに、死んでいくのかな』 少なくとも。 今まで見てきたどんな人間より。 死に急いだ馬鹿な猫たちより。 仲間を葬ってきた、血に濡れた俺よりもずっと。 人間の底辺に属するはずの、異臭を放つあの男は――。 『じゃあ』 パンを食い終った妹が、笑顔で言った。 『おじさんも仲間にいれてあげよっか』 ……ああ、どうせ死ぬんだ。 猫の掟なんて、クソ喰らえかもしれねえなぁ。
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