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高3の卒業式の日、俺たちは別れた。俺が終わらせた。
元々一年前から決めてたんだ、別れようって。
忘れもしないあの日、俺は一番裕を傷つける言葉を言って突き放した。
「......もう、あいつは父親になったのかー」
一人寂しく晩酌をしながら、部屋に飾ってある二人の写真を眺めた。
幸せそうに笑っている、裕と俺。
「良かった。やっぱり、間違ってなかった」
俺には、出来ないもんな。
少し酔ってしまったようだ。ついつい独り言を呟いてしまう。
そんな自分が嫌で、ヤケになって缶ビールをぐいっと飲み干した。
自分の出した答えに後悔はしていないが、裕のことを思い出すと、胸が苦しくなる。
最近はあまり思い出さなくなったのに。
***
『───別れよう、裕』
3月5日。
式は学校が違うため別々だったが、夕方に裕が家まで来てくれた。
裕は前々から東京の大学でスポーツ推薦が決まっていて、大学生になったら一緒に住まないかと、大学が決まった時に提案された。
俺は勿論だと答えた。
本当はそんなこと思ってもいなかったのに。
そして卒業式を終え、具体的に何処に住もうかと言う話の途中で俺が別れを告げた。
あの時の裕の顔を、今でも忘れられない。
別れを決めたきっかけは、皮肉にも、裕の母親の一言だった。
『あんたも男の子ばっかとつるんでないで、そろそろ彼女でもつくって連れてきなさいよー』
今思っても、冗談で言ったのは分かっていたし、ごく普通の親子の会話だったと思う。
裕も『出来たらな』と、笑いながら答えていた。
別にこの会話に傷ついたわけではなかった。
ただ、その時気づいたんだ。
俺が、この親子の幸せを奪っているんだって。
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