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傲慢なのは承知の上だ。
ーーでも。
ーーそんな俺すら承知の上で、かぐや君は、好きになったんだろ?
「本当は、こんなの、俺が言えたことじゃないんだけど。でも、このままとかどうしても無理だから、俺の気持ちだけ伝えとく。強制はしないけど、……俺のことが好きなら、うちに戻って来て欲しい」
『かぐや姫は、月に帰るだろ』。
かぐや君は言った。
その通りだ。かぐや姫は――昔々、名前も知られていない誰かが書いたお伽噺のなかの登場人物は、泣きに泣いた末、月に帰る。
「……仁科……俺の話なんも聞いてないのかよ!? お前と一緒にいたら俺、」
だけど、と思う。
「それでもいいから、言ってんの」
かぐや君が言葉を詰まらせた。
「いや、でもやっぱ、いきなり……そういうこと? になるのは無理かも。俺、今まで結構色々あって、トラウマみたいになってるし」
「じゃあ、やっぱ無理だろ!」
「無理ではないだろ」
高校時代からの付き合いで、四日前俺に告白し、今俺の前に立っているかぐや君は、かぐや姫に似ているけど、かぐや姫じゃない。
「だって、解決策があんじゃん」
かぐや姫と同じ道を辿る必要なんてない。バッドエンドを迎える必要なんてない。
「俺を夢中にさせればいい」
今――彼の長い人生のうち、この段階だけだとしても――俺が、分岐点になっているなら。
無理矢理にでも、ハッピーエンドに変えてやる。
「昔のこととか、性別がどうかとか、そんなこと、全部忘れられるくらいに、俺をメロメロにさせてみろ。そしたら俺が……今まで泣かせてきた分、全部チャラにできるくらい、かぐや君を幸せにしてやるから!」
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