第3話

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   瞼の裏まで侵食する眩しさに、目を覚ました。  既にカーテンは開け放たれ、午前の麗らかな陽射しが、燦々と顔面に降り注いでいる。この部屋は日当たりが良い。  んぁー、と鼻に掛かった奇声を発しながら上体を起こし、その延長で伸びをする。  寝ぼけ眼をごしごしやりつつ、俺は辺りを見回した。  洋服掛け。もっぱら食事に使うローテーブル。上を俺が、下をかぐや君が使っている小さな本棚。  それらがぽつぽつと点在する薄暗い室内に、同居人の姿はなかった。  トイレやシャワーを使っている気配もないし、どうやらもう出掛けたらしい。そういえば、金曜日は一講目から入れているようなことを言っていた覚えがある。  俺の方は三講目からだから気楽なものだ。携帯を見れば11時12分。12時半に出れば間に合うから、一時間以上は余裕がある。  のろのろと布団から這い出し、ざっとシャワーを浴びた。  タオルで頭をごしごしやりつつキッチンに近付くと、下手とも上手とも言えるような、微妙な筆跡のメモを見つけた。 『味噌汁作った。飯も炊いといた。昨日の残り、賞味期限今日の昼までだから食べちゃって』  かぐや君はすごい。こういう気遣いが、俺にはなかなか出来ない。 『サラダも出来るだけ残すなよ。あと、ゴミ出しといたんだけど、何度も言ってるように、燃えるゴミの袋にペットボトルとか入れないように』  かぐや君はえらい。俺は顔をしかめた。  涙線にストッパーを掛けられないくらいには参っちゃっているくせに、人の野菜不足を心配してサラダをこしらえる。それどころか、地球環境のことだってちゃんと考えているのだ。 『あと、昨日はごめん』 ――聞き飽きたってば。  用済みの紙だからと捨ててしまう気にはならなくて、そのまま置いておこうと裏返す。  白紙だと思っていたそこには、サークルの勧誘文句が弱々しく印字されていた。
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