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さあ来い、と、最早精一杯の俺は両手を広げた。
かぐや君は、一切の表情をなくして、ひたすらに呆然と俺を見ている。
ーーなんだよ、この反応。
俺は焦り、刹那、あ、と閃いた。
何とか色気を醸し出そうと、シャツのボタンを二つ外してから、どや!とまた両手を広げる。
決死の作戦は功を奏したらしい。
かぐや君は震え、表情をくしゃりと歪めながらーー短い距離ながら全力で駆け寄ってきた。
躊躇なんてないし、要らない。ぎゅうと、強い力で抱き締められ、同じくらいの力で抱き返す。
何も言わずに、時折鳥が囀ずる音を聞きながら、俺たちはしばし、重なり合った。
やけに高いけど、不思議と心地好いかぐや君の体温。いつもと少し違うかぐや君の匂い。
「……かぐや君。月の正体は?」
「……地球の衛星?」
「じゃなくて。友達ん家?」
「あ……駅前の、カプセルホテルみたいなとこ」
聞いて、俺はくすりと笑った。
どうせうち泊まりに行けるような友達いねーよ、とぼやく彼の背を、はいはい、と優しく叩く。
少し高い位置にある肩に手を置いて、ゆっくりとその身体を離した。さして力を入れていないけど、かぐや君は無抵抗に従う。
切れ長の瞳を、涙がキラキラと揺るがしている。もうすぐ始まる季節には不釣り合いな、雪のように白い肌は紅潮して。
「かぐや君、やっぱりかっこいいな」
「……そういうこと、お前が言うなよ」
「かっこいいと思うものはしょうがない」
半眼になって見上げると、仁科の方が百倍綺麗だ、と負け惜しみのように唇を尖らせる。
「百倍かどうかはともかくとして……俺より良い男も、良い女も、きっといないよ」
「……うん」
ーー冗談に殊勝な様子で頷かれると困るんだけど。
そう俺は苦笑いして、
「そんなのが、かぐや君がすげー泣いたせいで、かぐや君のこと考えるの、もう癖みたいにさせてんだからな」
「……うん」
「もう、ほっといて月に帰ったりすんなよ」
「…………うん」
「あ、こら、泣くな」
額にチョップをかましても、一度決壊したかぐや君の涙腺は止められない。
まあいいか、と俺は肩をすくめる。
それが喜びの涙なら、いくらだって流せばいい。
というか、がんがん泣かせてやる。
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