第2話

2/4
前へ
/64ページ
次へ
   かぐや君と出会ったのは、高校2年の春だった。  とはいえ、実際に交流し出したのはその年の秋から。同じクラスにいながら、俺たちは半年以上の間、挨拶を交わす程度の仲に留まっていた。  仲良くなったきっかけは、ありがちだが席が隣になったこと。  ホームルーム後の休み時間になって、よろしく、と声を掛けてみたらびくりと構えられた。  きょとんとする俺の顔をまじまじと見詰めた彼は、ふいに思い出したように首を竦めて、 「よろ、しく」  何だか、折角美人なのに勿体ない。声だって小さくて籠もっていて、折角低くてかっこいいのに勿体ない。  それが第一印象だった。 「ひょっとして人見知り? えっと」  失礼ながら名前を思い出そうとすると、彼は間髪いれずに、しかし小声で教えてくれた。  月野宏。  俺は目を丸くした。 「つきのひと? 」 「ち、ちがくて。つきの、ひろ」 「何だ、ヒロくんね。何だよ月の人って、あれじゃん、かぐや姫じゃん」  聞き間違いの罰の悪さから笑う。けど、いかにも困ったように歪んだその綺麗な容貌を見返して、はたと思った。 「月野君って、かぐや姫みたいだな」 「は? ど、どこが!? 」 ーーほら、声を張ったらかっこいい。まあ、今のはちょっとひっくり返りそうだったけど。  頭の端でそんなことを考えつつ、俺は指折る。 「だって肌白いし、髪も真っ黒だし、顔良いし。目細いとことかも、かな? あと月野って名字? 月と言えば、かぐや姫だろ」 「……いや、普通は、うさぎだろ」 「そう? でも、月野君はうさぎよりはかぐや姫に近い」  何せ、俺よりゆうに10センチは背が高い。小動物の名を冠するにはでかすぎた。  何事か不満をぼやきつつ首の後ろを擦る彼を余所に、俺は満足げに宣言する。 「じゃ、今日からかぐや君って呼ぶから」  あだ名をつけると、それだけで親しくなった気がしていい。要は自己満足の問題。  彼は頬を赤くして、やめろよ、と言った。  心から嫌がっているようではなかったから、その後、俺はかぐや君呼びを強行した。  事実、抵抗の意思を見せながらも、彼はちゃんと返事をしてくれた。 「かぐや君、お昼一緒に食べよ」 「それやめろって……わかった」 「かぐや君って芸術何とってんの」 「だからやめろよ……美術」 「かぐや君、教室に蝶々入ってきたよ!」 「だから、……うわ止めろ近づけんなって!!」
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

296人が本棚に入れています
本棚に追加