第2話

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 そんなやりとりが何となく愉快で、俺は日毎に積極的に彼に構うようになり、色々誘うようにもなった。  カラオケでは重度の音痴だと知り笑い転げ、二度と来ないと拗ねられた。  服屋では適当に選んでいるだけなのに酷くセンスが良いことに驚き、照れてなのか、じろじろ見るなら二度と来ないと拗ねられた。  スーパーでは高校生に似つかわしくないほど家庭的な一面を見て感心し、なぜ卵の安売りの時間を把握しているのか訊いたら何故か二度と一緒に来ないと拗ねられた。  考えてみると怒られてばかりだ。けど、どの瞬間も心の底から怒っているようには思えなかったし、むしろ楽しそうだと感じることだってあった。  見た目が良くて、でも人見知りで、素直じゃなくて、可愛い、いい奴。  そんなかぐや君を、俺は思いの外気に入っていた。俺のこともきっと、好ましく感じてくれているんだろうなと思っていた。  3年になりクラスが別れた。勉強に追われるようになり、ふらふら遊びに出掛けることも出来なくなった。  それでも、俺たちの関係は変わらなかった。  意図せず彼と同じ大学を受験することになった俺は、かぐや君と一緒に図書室に通ったり、息抜きのコーヒーを飲んだりした。  かぐや君家で徹夜勉強会なんて無茶をやったり、次の日一緒に遅刻したりもした。  そして、一緒に合格した。  俺たちは合格発表の会場で、目に涙を浮かべて喜びあった。  それだけじゃ足りなかったから、なごり雪の降る寒い日に、ささやかな祝勝会を、今度は俺の部屋で開いた。 「おめでとう、かぐや君」 「ありがとう。いや、でもその呼び方」 「で、俺には?」 「……おめでとう」 「ありがとう、かぐや君」  二人して会心の笑みを浮かべて、酒の代わりにコーラで乾杯した。  大学行ったらあれしたいこれしたいとか、将来は民間企業いや公務員にとか、たわいもない、だが未来への期待に満ちた話題に花を咲かせた。 「あ、そうだ、かぐや君」  そして、俺は何てこともなく切り出した。  机上に落ちたポテトチップスやらのカスを、几帳面に集めて捨てていたかぐや君が顔をあげる。 「俺たちさ、これから親元離れて暮らすわけだけど」 「ああ」 「よかったら一緒に住まない?」  と。  かぐや君の目が、ゆっくり時間をかけて見開かれた。  それまで楽しげだった表情から、一切の色が抜け落ちる。
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