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目を閉じようとしたとき、私とナイフ男の間にバサリと黒い物が落ちてきた。
ナイフ男の後ろにいる男もそれに気づき、立ち止まる。
よく見ると、それは男子学生用の黒い鞄だった。
男の顔に少しシワが寄り、それを拾う。
「なんだこりゃ……?」
ナイフ男が呟いた瞬間。
「ゲァッ!!」
ナイフ男の後ろにいた男が声をあげ、支えを失った人形のように崩れ落ちる。
その崩れ落ちる男の横には、傘を両手で握っている青年がいた。
「間に合わなかった……」
残念そうに呟く青年。よく見ると私と同じ学校の制服を着ている。
「誰だこの小僧は。テメェの知り合いか?」
ナイフ男が私に聞いてくる。
「いや、多分知らないと思う」
私の代わりに青年が言う。
「じゃあ何の用だ?まさか、この女を助けようとか言うんじゃないだろうな?正義の味方でも気取ってるのか?」
ナイフ男が青年に続けざまに問いかける。この青年が助けてくれると思った。
「いや、助けない。正確には助けられない。無理だ」
即答。
まるで私の向ける希望を打ち砕くように即答した。
「……ははっ、そう……だよ……ね……」
私は痛みをこらえながら呟いた。
顔も知らない赤の他人を、裏社会の人間と関わってでも助けるほど、この社会の人間は優しくはない。
危険な存在には関わらず、自分の身を第一に考えるのが人間なのだろう。
どうせ、この青年も同じ。尊徳よりも損得を優先する人間なのだろう。
「だったら早く消えろ。今なら五体満足で帰してやる」
ナイフ男が見せびらかすように、ナイフを軽く振りながら通告する。
「それも無理」
青年は笑いながら首を振って答える。傘を宙に投げ、首と指を鳴らす。
「俺にできることはアンタを潰すだけだ」
傘が地面に落ちたと同時、急に青年の顔が真顔になる。
数メートルの距離を一瞬で詰め、ナイフ男の胴に右拳を打ち込む。
ナイフ男の手から学生鞄とナイフが離れ、私の前方に金属音を立てて落ちる。
「……ッ!!」
胴を打たれた衝撃で、よろめいたナイフ男の首に手刀を浴びせ、ナイフ男が前のめりに倒れる。
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