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「わ、私は、そこまで・・・・・・思ってもらえる人間じゃないし、つ、司さんのこと、うっ、憎んだり、恨んだりして、いないです」 泣きながらだったので、最後の方は自分でも何て言ってるのか分からなかった。 だけど、椎名さんにはしっかりと届いたようで彼は、ぐしゃぐしゃな顔になっている私を見て、優しく笑う。 「ほらほら。あんまり泣くと可愛い顔が台無しだよ? ちょっと、落ち着きなよ」 ポンポンと、頭に手を置かれる。 椎名さんの優しさが胸に染みて、ますます涙が止まらなくなってしまう。 私は、周りの人に恵まれている。 学生の頃はそんなこと少しも思わなかったのに、社会人になってしみじみそう思う。 しばらくして落ち着くと、椎名さんが冷えたおしぼりを渡してくれた。 「ウサギちゃんが泣いてる間に、取りに行ってきた」 本当に、なんて優しい人で、気が利くんだろう。 「ありがとうございます」 会社で猫を被らなくても、うまくやっていけそうなのにと密かに思う。
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