遠い近距離

６

「司が本当の家族になってからは、同い年だけど弟扱いして、すげぇ可愛がってた。

それから、いろいろあったけど、今でも司のこと可愛い弟でたまらないよ。

だけど、心のどこかでは、可哀想だと感じてるのかもしれない」

「可哀想、ですか？」

「司は本当の母親が居なくて、寂しかっただろうなって。
今だって、俺たちは家族だと思ってるけど司はどう思ってんのかなとか思うときあるんだよ。

さっき、ウサギちゃんが言っただろ？
“特別”な感情はないんですかって。

心のどこかでは、司のこと可哀想だなんてつまんねぇこと思ってるのかもしれねぇな、俺は」

話終えた椎名さんは、どうしようもない顔をして笑ってごまかしていた。

「そうやって、思われている方が可哀想です」

「え？」

この話題に私が口を挟むと思っていなかったのか、意外そうに私を見る椎名さん。

「私が何か言うなんて、差し出がましいですけど１つだけ言わせて下さい。

私が司さんだったら、椎名さんの心の中に自分のことを可哀想だと思っているのが、１番ショックです。

可哀想？
司の方はどう思っているか分からない？

椎名さん、あなた司さんのこと見下してるんですか？　何様なんですか？
司さんの側に誰よりも居た椎名さんが、司さんがどう思ってるかなんて１番、分かるんじゃないですか？
分からないなら、今まで司さんの何を見てきたんですか」

思ったよりも自分が興奮していたらしく、一気に言い終わると、ハァハァと息をする。

お前に何が分かるんだって言われても構わない。

私が今、言わなきゃ誰も椎名さんに言わない気がしたから。

誰も椎名さんに言わなきゃ、椎名さん自身が大切なことに気づくことができないから。

お互いに、何も話さない。

沈黙に耐えかねたのか、ふはっと椎名さんは笑った。

「ウサギちゃんって、やっぱりキツイ。

･･････ありがとうね」

椎名さんは今までにないぐらい優しく笑っていた。