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狙っていた獲物に布袋をかぶせ、ロープでくくりつける……はずだった二人組は、その行動を実際にすることは出来なかった。
毛布の下には少女の姿はなく、代わりに金の鱗の竜が、膨らみをもたせるために入れられた枕の上で、長々と体を伸ばしていたのだ。
「何すんだよ!」
竜は頭を上げ、不機嫌そうに振り返った。
それから、背ビレを逆立てて、赤く燃える炎のような目で、ぎろりと二人組を睨みつける。
少女がベッドにいないこと、その場所に竜がいたこと、そしてその竜が喋ったことに驚く二人組の首筋に、背後から冷たい金属が押し当てられた。
「すみませんが、安眠妨害なんですけど? その前に、人のお部屋に勝手に入ってきちゃ駄目でしょう」
ナディルは、飴色の髪の男に細剣を突きつけ、小太りの男には左手で握った短剣をあてがって、眠そうに呟いた。
しかし、その翡翠の目は釣り上がり、狩りをする猫科の動物のように隙はない。
「う……」
飴色の髪の男は、布袋で隠した右手を、そろそろと腰の剣に伸ばした。
指の先が剣に届いた瞬間、男は素早く剣を引き抜き、振り向きざまにナディルに切りつける。
男の剣が、橙色の空間の中で、不気味に閃いた。
「このガキ!」
ナディルは表情一つ変えず、小太りの男の束ねた髪をぐいっと引っ張り、思いきり足を払った。さらにその肩を踏み台にして、飛び上がる。
ナディルめがけて振り下ろされたもう一人の男の剣は、もんどり打って倒れる相棒の頭をかすめ、弧を描いた。
小太りの男が床に尻餅をつくと、その真ん前に、ぱさりと彼の髪が落ちる。
「お、俺の大切な髪をっ!」
切り落とされた髪をつかんで、彼は悲鳴に近い声で叫んだ。
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