3.侵入

2/6
前へ
/231ページ
次へ
 狙っていた獲物に布袋をかぶせ、ロープでくくりつける……はずだった二人組は、その行動を実際にすることは出来なかった。  毛布の下には少女の姿はなく、代わりに金の鱗の竜が、膨らみをもたせるために入れられた枕の上で、長々と体を伸ばしていたのだ。 「何すんだよ!」  竜は頭を上げ、不機嫌そうに振り返った。  それから、背ビレを逆立てて、赤く燃える炎のような目で、ぎろりと二人組を睨みつける。  少女がベッドにいないこと、その場所に竜がいたこと、そしてその竜が喋ったことに驚く二人組の首筋に、背後から冷たい金属が押し当てられた。 「すみませんが、安眠妨害なんですけど? その前に、人のお部屋に勝手に入ってきちゃ駄目でしょう」  ナディルは、飴色の髪の男に細剣を突きつけ、小太りの男には左手で握った短剣をあてがって、眠そうに呟いた。  しかし、その翡翠の目は釣り上がり、狩りをする猫科の動物のように隙はない。 「う……」  飴色の髪の男は、布袋で隠した右手を、そろそろと腰の剣に伸ばした。  指の先が剣に届いた瞬間、男は素早く剣を引き抜き、振り向きざまにナディルに切りつける。  男の剣が、橙色の空間の中で、不気味に閃いた。 「このガキ!」  ナディルは表情一つ変えず、小太りの男の束ねた髪をぐいっと引っ張り、思いきり足を払った。さらにその肩を踏み台にして、飛び上がる。  ナディルめがけて振り下ろされたもう一人の男の剣は、もんどり打って倒れる相棒の頭をかすめ、弧を描いた。  小太りの男が床に尻餅をつくと、その真ん前に、ぱさりと彼の髪が落ちる。 「お、俺の大切な髪をっ!」  切り落とされた髪をつかんで、彼は悲鳴に近い声で叫んだ。
/231ページ

最初のコメントを投稿しよう!

147人が本棚に入れています
本棚に追加