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「では、カジェーラ殿。時々ここに遊びに来てもよろしいですか? 私はあの花畑がとても気に入ったのです。ぜひ寝転んで、一日のんびり過ごしたい。そしてもちろん、あなたの手料理もまたご馳走になりたいのです。幸いなことに、私はあなたの婚約者に似ているようですし。彼に出来なかったことをぜひ私に。それであなたの心が少しでも癒されるなら、とても嬉しいです」
フィリアスが、申し出る。
臣下たちの口が、再びあんぐりと開いた。
何を言い出すのだ、我らが公子は。
そういう無言のセリフが、全員の唇に張り付いている。
「勝手にするがよい。私の邪魔をしなければ、いつでも来てよいぞ。料理も作ってやろう」
カジェーラが答えると、フィリアスの顔が嬉しさで、ぱっと輝いた。
「ありがとうございます! では、近いうちに参ります」
そんなことはさせませんぞ、と臣下たちは固く決意したようだが、フィリアスはきっと、事もなげにするりと立ち回って彼らを出し抜き、彼らが気がついたときには既に花畑で寝そべっていそうだった。
「公子さま、やっぱり無邪気で何も考えない、いたいけのないガキだよな。オトナだったら、普通そんなことを言い出す発想も勇気もあるもんか……」
ガガが呟く。
ナディルは淡く微笑んで、ガガの頭を撫でた。
「あ、ナディル。笑った……」
ガガは、ルビーの目でナディルの穏やかな顔を見上げた。
「カジェーラ。私はあなたの婚約者だった大公に、そんなに似ていますか?」
フィリアスはそう言って、さりげなくカジェーラの前に立つ。
カジェーラは、眩しそうに彼を見上げた。
「似ておるよ。その金の巻き毛は、私がかつて憧れた髪じゃった。その紫の目は、私が愛したあの方のアメジストの目と同じじゃ」
「では……」
フィリアスは、満面の笑みのまま行動する。
そこにいる一同は、目を疑った。
フィリアスは、いきなりカジェーラを強く抱きしめたのだ。
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