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「廊下で転がっていてもらいます。私はまた寝なければならないので。朝までゆっくりね」
飴色の髪の人さらいが、ふんと小馬鹿にしたように、鼻を鳴らした。
「翡翠のナディルだか何だか知らないが、お嬢ちゃん。我々がこんなちゃちな草の蔓で編んだ紐で、いつまでもおとなしく縛られているとでも思っているのかい? お嬢ちゃんが目の覚める頃には、この紐だけを残して、我々悪党二人組のおじさんたちは、影も形もないよ。お嬢ちゃんの手の届かない安全なところで、のんびりと昼寝でもしてるだろうよ」
「甘いね、悪党のおじさん」
ナディルは、翡翠色の冷たく無表情な目で、彼を見下ろした。
「あなたたちを縛っているのは、サラマンサの草で編んだロープだよ。そのロープで縛られた者は、体がしびれて眠ってしまう。ほら、あなたのお友達は、もう夢の中だ」
「なにっ」
彼は振り向き、相棒が首をがくんと垂れ、すやすやと子供のように寝入っているのを発見する。
「目が覚めたときは、たぶん檻の中だ。安心してお眠りなさい。おやすみ、人さらいのおじさん」
ナディルは、口元だけをゆるめて、ふっと笑う。
「このガキ……!」
飴色の髪の人さらいは暴れようとしたが、やがてその顔からも肩からも力が抜け、相棒と同じようにがくりと頭を倒し、すぐに動かなくなった。
ナディルは、男二人をずるずると引きずって、廊下に放り出した。
「重いんだから、もう」
手伝おうとして拒否された若者は、腕組みをしたまま、紫色の目でナディルを眺める。
「サラマンサの草は手に入りにくく、高価なはず。それで作ったロープを持つことを許されるのは、王室付きの魔法使いや神官兵の長、位の高い近衛兵、それとも、武器を収集するのが趣味のよほどの大富豪。あなたは、いったい……」
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