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「悪徳商人や、どこかの落ちぶれた元貴族だって持ってましたよ。そんなに珍しいものではないです」
ナディルは微笑んで答え、客を見送る主人のように、開いた扉のそばに立った。
「さ。あなたも出て行ってくれますか? 心配してくれてありがとう。でも、もう終わりましたから。私はこれから眠ります」
「翡翠のナディル。本当にこの二人、こうやって置いておくおつもりですか?」
若者は、信じられないという顔をして訊ねる。
「持って行く人もいないでしょう。ここのお客も働いている人たちも、こういうことには関わり合いにはなりたくないはずですしね。第一、このロープをはずせる人は、そうそういないもの」
ナディルは、若者を無理やり部屋の外に押し出した。
「おやすみなさい」
儀礼的にそう言い残して扉を閉め、鍵をかける。
まだ呆気に取られている若者の顔が、扉の向こうに消え去った。
「あ。やっと寝られる……」
ナディルは、ベッドに潜り込んだ。
「……ったく。ナディルは、いつもほったらかしなんだから」
ガガはぶつぶつ文句を言いながら、床に転がった剣を片付け、位置の変わった調度品をきちんと直した。それから、ナディルの足元に丸くなる。
その時にはナディルは、たたいてもひねっても起きないほどに、深い眠りへと落ちていた。
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