4.オーデルクの公子

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 目をこすると、手のひらが湿った。  ナディルは、それを頬に撫で付ける。  泣いてはいけない。決めたのだから。彼に会うまでは、絶対に泣かないと。  泣いていたのは、長い髪をし王女の衣装をまとったナディル。  二年も前のことだ。『翡翠のナディル』は、泣かない。  夢を見ようと見まいと、彼のいない一日は再び始まる。  行き場のない心を抱えて、また一日を過ごさなければならない。    そうだ。あの二人組を連れて行って、引き渡さなくては。  ナディルは思い出して、憂鬱になった。  夢の世界は薄れ、直面すべき現実が押し寄せてくる。  昨日通った町に逆戻りしなければいけない。確かベルタイトとかいう町だ。  だが、どうやって運んだものか。  大きな図体の男が二人。当然、馬がいる。  丈夫な馬を一頭買って、あの二人を乗せて引いて行こう。ちょっと馬が気の毒だが。  何と面倒なことか。  時間の無駄だ。懸賞金が入るのは、嬉しいとはいえ……。  ナディルはベッドから体を起こし、髪をかき上げた。  ガガは、ナディルの足元で丸くなって眠っている。  ナディルは、ガガの頭をそっと撫でた。  朝の冷気を含んだひんやりとした感触が、金の鱗から伝わってくる。 「あなたはいつも、私のそばにいてくれるんだね。ありがとう」  ガガは、耳をぴくりと動かした。  ナディルは微笑んで、そっとベッドから離れる。  顔を洗い、服を着替えたナディルは、部屋の扉を開けた。  そして、廊下を覗き込む。 「あれ……?」
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