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目をこすると、手のひらが湿った。
ナディルは、それを頬に撫で付ける。
泣いてはいけない。決めたのだから。彼に会うまでは、絶対に泣かないと。
泣いていたのは、長い髪をし王女の衣装をまとったナディル。
二年も前のことだ。『翡翠のナディル』は、泣かない。
夢を見ようと見まいと、彼のいない一日は再び始まる。
行き場のない心を抱えて、また一日を過ごさなければならない。
そうだ。あの二人組を連れて行って、引き渡さなくては。
ナディルは思い出して、憂鬱になった。
夢の世界は薄れ、直面すべき現実が押し寄せてくる。
昨日通った町に逆戻りしなければいけない。確かベルタイトとかいう町だ。
だが、どうやって運んだものか。
大きな図体の男が二人。当然、馬がいる。
丈夫な馬を一頭買って、あの二人を乗せて引いて行こう。ちょっと馬が気の毒だが。
何と面倒なことか。
時間の無駄だ。懸賞金が入るのは、嬉しいとはいえ……。
ナディルはベッドから体を起こし、髪をかき上げた。
ガガは、ナディルの足元で丸くなって眠っている。
ナディルは、ガガの頭をそっと撫でた。
朝の冷気を含んだひんやりとした感触が、金の鱗から伝わってくる。
「あなたはいつも、私のそばにいてくれるんだね。ありがとう」
ガガは、耳をぴくりと動かした。
ナディルは微笑んで、そっとベッドから離れる。
顔を洗い、服を着替えたナディルは、部屋の扉を開けた。
そして、廊下を覗き込む。
「あれ……?」
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