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彼は、きちんと輪にしてまとめた薄緑のロープをナディルに差し出す。
それは、ナディルがあの二人組を縛ったサラマンサのロープだった。
それが自分のものであることをさっと確認したあと、ナディルは若者を見上げた。
「……では、あなたはこのロープを使えるわけですね。これの使い方を知っているのは、身分が非常に高い方の関係者か大金持ち。するとあなたは、そういう……?」
「あなたがロープをお持ちになっている理由は知りませんが、私の場合も、もしかしたら、あなたと似ているのかもしれませんね」
若者が言った。
「でも、まさか、ロープの使い方を知っているからって、親切心で早起きして、わざわざベルタイトまで、あのお尋ね者たちを運んで、おまけに懸賞金まで届けに戻ったわけじゃないでしょう?」
「あなたの手間を省いてさしあげたかったのですよ。あなたは逆戻りなどせずに、一刻も早くエリュースとやらの後を追いかけたいはずですし」
『エリュース』という名前が出た途端、ナディルの目が釣り上がる。
なぜこんな見も知らぬ人に、彼の名前を気安く口にされなければならないの。
翡翠色の目がそう告げているのが、ガガにはよくわかった。
ガガは喉の奥で、炎を噴き出す準備をひそかに始める。
「実は、あなたを雇いたいのです」
若者が、それまでの微笑みを直ちに消し、真面目な顔をして言った。
「それが一番の目的ですね」
「……」
ナディルは眉を寄せ、若者を眺めた。
笑みを消し去った若者には、ぴんと張り詰めたような緊張感が漂っている。
加えて、微笑みで分散されてつかみどころのなかった雰囲気が、輝くような気品と風格として作り直され、若者をしっかりと取り巻いた。
どこかの下級貴族の道楽息子や大金持ちの遊び人、などといったたぐいの人物ではなさそうだ。
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