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『そうだなぁ
今の君は、これまで教えられて積んだ経験、例えば文字や君の生きてきた世界での概念や作法、その他エトセトラの単純な知識……これらはきっと覚えているだろう?もっともまだ目覚めて数時間だし、わかんないかもしれないけど
でもそれに対して、以前の記憶も無ければ自分の事すらもわからない……名前とか、年齢とか、ね?思い当たるだろう?
つまるところ、『君』という意識が助からなかった、っていうのは、かなり違うけれどもまぁ、主観的かつ簡単にいえば記憶喪失ってことだ。
さて。それではなぜそうなってしまったか?
さっきも言ったように、君は勇者としてこちら側の世界に召喚される予定だったんだけれど……ある規定に引っかかったんだ。
完全にあちら側のご都合なんだけどね。
そもそも勇者召喚っていうのは、召喚したい側の世界へ、召喚する対象の世界で見つけ出された勇者にとって不自然でないシチュエーションで行われる。
魔法陣に目的と小さめの魔法陣で済むよう、なるべく体格の小さく将来有望な者を求む趣旨を書いて、あとは純度と濃度が高い魔力を大量にそこへ注いで丸一日。
そうして呼び寄せることができたら、その人材の魂を一時的に借りたものに対して、召喚主とその契約者が『最終審判』を下し良しとした上で成立するものなんだ。
この場合の召喚主は聖職者に限られてて、名誉なことらしいから大抵お爺ちゃんがこぞってやる。
この国の勇者召喚についての『最終審判』の項目は大まかに分けて3つ。
"勇者として神の加護を受けられるだけの器を持ち合わせているか"
"性格や本性、願望など…その人物の心はどのようなものか"
そして…
"種族的観点から見て人間であるのか"
たった3点、されど3点満点のうちの1点分の欠点はあまりにも大きい……
君はこの最後の項目に引っかかったんだ。
これには召喚の立会人全てが大いに驚き慌ててた。
原則、勇者は純血種の人間でなければならないのにこの子は違うらしい!ってね。別に今時珍しいことでもないのに。
……純血種がかなりの割合を占める世界に召喚元の指定までしてたらしいけれど、まぁ魔力の質も多いし量も多かったから、それに釣り合うコが来るのは当然だし
僕としては魔王を倒す勇者が純血種じゃなきゃいけないなんて仕組みにした覚えはない。
例外にしてもよかったと思うし、すぐに戻したりしても良かったはずだし、そもそも君は素質があるからただの転生にしたってよかったのに…
結局、一度引き抜いた君の魂を戻すことも、別の世界へ移すこともできないまま、召喚の魔法陣はタイムリミットを迎えて閉じられた。
挙げ句の果てに、そんな自分の失敗に怯えたこの世界の神様がそのまま君の魂をなかったことにしようとしたのさ。なんとでもやりようがあったのに、信じたんないよね?』
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