優しい人達

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ー魔王sideー 部屋から出た後、すぐに自室に戻り机の引き出しを開けて漁る。 なんだかヴォルフの慌てたような足音が聞こえるのは気のせいと思いたい。 さて。 喋れないとは言えども、反応からして言葉を理解していないというわけではなさそうだ。 ならば文字を書ける可能性も無くはないだろう。 このまま首を振る振らないで会話するのは少し面倒臭い。 とにかく何かメモ帳のようなものはないかと机の引出しを片っ端から開けては閉めるうちに、真っ黒な封筒が目に飛び込んできた。 都合よくその隣に鎮座していたメモ帳を机の上に置いて、それを手に取る。 ……これは月に一度邪神から届く、人間が住む場所に魔族や、いざという時俺が自由に操れる魔物達の安否や動きを知らせる手紙だ。 普段は白い封筒に白の便箋だが、重大な変化が起きた時や、こちらから何か対処が必要そうな何かしらがあった時は黒い封筒で手紙が送られてくるのだ。 そしてこの封筒が届いたのは数日前、いつもよりも早めの郵便だった。 慌ててその封筒の中を見れば 「転生者が来る。準備をしておいて。」 から唐突に始まり、その転生者の容姿やファミリーネーム抜きのミオ、という名前、そいつを保護しろと言ったもので、今見ればいつもよりも一層擲り書きしたような感じが出ている。 そのあと直ぐに外がざわめいて呼び出され、一度は俺もよくわからないままこの手紙をしまったのだが…… 成る程、さらっと読むだけでも今見れば重要事項らしきことから私情まで、いつもならば整然とした必要最低限のことしか書かれない便箋が文字で埋められていた。 まったく、読むだけでも疲れるような手紙だ。 はぁ、とため息をひとつ。 手紙を放るようにして引き出しへ戻し、自分がいつも使っている万年筆と机上に出したメモ帳を手に取ってから部屋から出る。 こんな手紙で見るより、恐らくその本人であろうあいつに聞いた方がきっと情報は多いだろう。
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