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わからない
また、意識が戻ってきた。
……さっきとは桁違いに身体が軽い。
フワフワと浮いている感覚がする。
今度こそ水中にいるかのようだ。
さっきまでの喧騒やまぶしい光はなくて、逆に静かで、むしろ暗すぎるくらいだ。
そんな中でぼーっとしていると、見えない誰かが僕の右手を手を優しく掴み、恐らくもう片方の手で左目を塞がれる。
びっくりして開けかけた両目ともをぎゅっと瞑ると、右目には唇のように柔らかい感覚が落とされた
その瞬間。
今までの心地のいい浮遊感が、その場所から何かの根を張り巡らされたかのように奪われた。
じわりじわりとさっき感じた激痛が帰ってくる。
いつのまにか手は離され、静かに、身体は重く、重力に従って下へ下へと沈んでいく。
ごぽ、と気泡が出そうなくらい口を開けても不思議と何ともないし、何ともならない。
焦っていると、やんわりと周りが暖かくなった気がした。
『生きる術は託した
また後ほど会おう』
動きを止めれば、ぼわんと頭に響くような、そんな声が聞こえて思わず動きを止めた。
相変わらず身体は沈んでいく。
けれど焦りや怖さが消えたような、どこか懐かしく、心地の良い声だった。
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