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はっと気がついたとき、僕は、水の中にはいなかった。
少し硬めの……多分ベットの上だ。
周りは明るすぎず暗すぎず、光がゆらゆらとしている。
天井に人影が一つ見えるから、多分誰かがいるんだろう。
物音に起こされたようで、自然と目が覚めたようで……でも目覚めきれていないような、よくわからない気分だ。
さっきのは……夢だったのかな。
でも確かにあの時根付いたような痛みは、身体に残っている。
首のあたりと、それから手足はズキズキと、焼かれたみたいに痛い。
そこ以外は等しく、打ち付けられたみたいだった。
起き抜けなのもあるかもしれないが、身体の重さ、というか怠さもあって、身を起こすことは難しい。
そして特に右目だ。
こればかりは何でかわからないけれど、どうも見えていない。
ちゃんと目は開けているはずだし、特別痛いとかでもない。
何かがかぶさっているわけでもなさそうなのに……
まだ他と比べてあまり痛くない左手をそっと顔に持って行って撫ぜてみる。
しかしやっぱり自分の皮膚に触れている感覚と、ガーゼの端っこをかすめる感覚しかしない。
その手もなんだかぐるぐると包帯が巻かれていたりするから、確かな感覚とは言えないかもしれないけれど。
そうして自分の手や腕を見ていると、そこにいた人物が少し歩み寄って覗き込むようにして右側から僕に影を作った。
「お目覚めですか。気分はどうでしょうか?」
少し低くて澄んだ声。
そちらの方を見ると、緩く結った、藍色で少し長い髪と、光の具合で少し金色に見える目をした男の人がこちらを見ていた。
フチの細いメガネをかけていて、黒い……後ろの長いスーツを着ている。えんびふく、っていうんだっけ。
執事みたいだなぁと、ぼんやり思った。
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