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ーヴォルフsideー
暫くそのままじっとその子供の出方を睨みつけるようにしながら伺う……が、一向に喋る様子はない。
もしや言葉を理解していないのだろうか?
ちらりと目を子供の容姿へうつす。
白い髪色と赤い眼。
数百年ほど前まではこのような容姿のものは「あまり好ましくない」とされてきたものの、今はもう以前ほどそのような風潮はなかったはず。
それに今はもう着替えさせてはあるが、拾った時はボロボロとは言えどもそこそこ上流階級とも取れそうな衣類を着ていた。
言葉を解せないような環境で育てられたとは、とても考えにくい。
震えながら一筋だけ涙をこぼす子供は、血の気のすっかり引いてしまった真っ青な顔面の半分を凍らせながら、怯えるばかりだ。
侵入者とはいえども所詮人の子、それにどうも敵意はないようだ。
おそらくこの怪我では逃げることもできないだろうし、それにこうなってしまってはいずれにせよ話など出来そうもない。
「まぁ、いいでしょう。何処の馬の骨とも知れませんが、お客はお客ですし。
先程の質問の答えはまた後ほどお聞かせ願えますか?証拠などがございましたら、侵入目的以外の理由もお伺い致します。」
極力優しくそう言いながら凍らせた部分にもう一度そっと触れると、氷がピキピキと音を立てながらも霧散する。
それを文字通り肌で実感した子供は、怯えが消えたかのように驚いて自分の凍っていた頬に包帯だらけのその手を当ててぺたぺた触ったあと、私のほうを見上げた。
……さっきまで胸ぐらを掴んでいた男をそうも無垢な目で見るのは逆にこう、何というか……いや、本当に何者なんだ?
今まで生きてきた中で初めて見るようなその反応に、疲れに似たものを覚えて溜息をつく。
思わず頭を抱えたいような気持ちでいると、遠くの方……この城の主人の部屋の方からベルの音が鳴る。
厄介なことに、今この城でそれに答えられる使用人は私だけ。
「どうせその傷では動けないでしょうし、次の鎮静剤を打てる時間までもまだあります。もう暫く眠ってはいかがでしょうか?」
その言葉に、相変わらず無口に頷く子供を一瞥して……お辞儀をするか迷って、結局しないまま背を向け、ベルの鳴った部屋へ向かった。
……あぁも素直だと、肩透かしを食らったような気分になってどうもいけ好かない。
ーヴォルフside endー
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