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ー… sideー
ギィ……バタン
重苦しい音を立てて扉が閉まり、一度過ぎ去った恐怖への安心感で詰めていた息をハ、と吐き出す。
あの言い方は多分、言外に逃げるなってことだった
下手に動くこともできないし、ここは大人しく休んでいる方がいいに違いない……
いや、そうするしかないと言った方がいい。
ここまで来るといっそ束の間であると思われる休息をとっておくしか、今できることはない。実際意識は今すぐ飛ばしてしまいたいくらいの疲労感だし。
そう思って瞼を閉じる。
「おい。」
「っ!」
突然聞こえた声に思わず息を詰める。
そちらに目を向けるとドアのすぐ側から金色の目でこちらを見ていて、おもわずびくりと肩を揺らした。
「単刀直入に聞く。お前の名前はミオか?」
驚く僕をよそに、そう問いかけるような口調で言ってくる。
「ハイかイイエで応えりゃ済む話だろう?こっちの言葉が分からない訳じゃないのは知ってんだ。早く答えろ。」
少し怒ったようにそういう声は、なんだか刺々しい。
言葉なんて出ないとわかっている口が、躊躇するような素振りであわあわと動く。
ついにしびれを切らしたお兄さんはカツカツと足音を立ててこちらへ近づきバンッ、と頭上の壁を殴った。「答えろ。ミオか。そうでないか。」
一度はぎゅっと目を閉じたけれど、恐る恐る目を開くと薄暗くてよく見えていなかった顔がはっきりと見えて……驚いた。
鋭い目……肌が真っ白で……髪の毛は黒。
すごい、お人形さんみたいに綺麗な顔立ちだ。
さっき凍らされた反動かやけに暑くてふわふわする僕の思考は、危機感も何もかもを投げ出して現実逃避を始めて、目の前の顔への好奇心へと全部がそらされた。
もはや、それは夢心地というやつで
言い訳をすると、かなり自分の行動と思考が切り離されてしまったみたいな感覚になっていて
気がついたら手を伸ばして顔にそっと触れていた。
じんわりとあたたかい温度が指先に伝わる。
「……は?」
お兄さんは数秒のされるがままの状態から立ち直り、弾かれたように僕の手を払いのけてパッと立ち上がり、2、3歩後ずさった。
一呼吸、二呼吸置いて、わなわなと口を開く
「テメっ……いきなりさわんな!!普通初対面のやつのほっぺ触るか?!100歩譲って断りくらい入れやがれ!!」
顔を真っ赤にして吐き捨てるように、声をひっくり返しながら怒鳴られてしまった。
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