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それからというものの、お兄さんは、つーんとそっぽをむきっぱなし。
眉間にはシワがよりっぱなしだ。
喋れない僕は当然だんまりを決め込む。
ただただ沈黙だけが流れてすごく気まずい。
もうやらないとは思うけど今度から突然触れたりするのはやめよう、と思いながらちらりとお兄さんを盗み見る。
……あぁぁ、やっぱりツンとしている
謝りたいな……
そう思った僕の頭に『文字で伝える』という考えが浮かんで、首をゆっくりと動かして周りを見渡してみる。
そうだ、それだ。なんで今まで気がつかなかったのだろう。
部屋にはベットと燭台に立てられた蝋燭、それを丁度乗せられるくらいの大きさのミニテーブルだけしか置いていない。
外にいたなら何か持っていたかもしれないと思って、布団の中でもぞもぞと手探りしてみたが、その割シンプルな着衣にはかけるものはおろかポッケもなさそうだった。
「……俺の質問にも答えないまま、探し物かよ」
お兄さんが、僕から少し距離を置いた所に立って聞いてきたそれに、少し苦い思いをしつつ目線をそらす。
その反応が気に入らなかったのか、盛大な舌打ちが聞こえた。反射的にびくりと身体が跳ねる。
「だから……っお前のその口は飾りか?!喋れねぇのか?!」
「っ」
萎縮して首をすくめながら、こくりと頷く
すると、その怒りで顰められた眉がピクリと動いた。
「……あ?喋れねぇの?」
確認の問いにもう一度頷く。
今度は、目を一瞬見開き、そしてその後すぐにバツの悪そうな顔へと変わる。
「面倒くせ」
そう言って少し考えたかと思うと、立ち上がって僕を見下ろす。
「ちょっと待ってろ」
そう言い捨て、僕の反応までは見る間もなく、ぱっとドアを開けて走り去る。
大きく開かれたドアが反動で戻ってきて、バタン、と閉まり、足音が遠ざかる。
呆気に取られてそれを見送ってから間もなく、いつの間にかドロドロに燃えつきた蝋燭の火が消えて、部屋は真っ暗になった。
僕だけ、一人だけの部屋。
なんだか空気がしんと冷たくなったような気持ちになった。
そんな静かで真っ暗な空間に、急にどうしようもない不安を覚えて掛け布団をぐっと手繰り寄せる。
それからきつく目を閉じれば、そのうち少し引っ込みかけていた眠気にずるりと引き込まれていた。
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