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何の気なしの思いつきの問いかけにこれほどジュピテルが不機嫌になるとは予想していなかったのだろう。パラスはジュピテルの厳しい視線から目をそらしておどおどと声を震わせている。
そんなパラスにゆっくりと近づくジュピテル。
いつもならパラスを怯えさせないように威圧を与えないような距離を保つはずのジュピテルが、彼女のすぐそばまで歩み寄り、そして立ち止まる。
間近に並ぶと二人のそもそもの身長差も際だって、まるで大人と子ども…いや、巨人と小人のような印象になる。怯えて俯いたおかげで、当のパラスはその身長差を目で確かめずに済んだのは、果たして幸運と言えるだろうか。
「…ほう。今日は、逃げないのだな?」
静かな声で囁くジュピテル。そして、その言葉と同時にパラスのドレスからむき出しになっていた素肌の肩をがっしりと掴み、自らの脇へと引き寄せる。
パラスは突然の事に声も出せない。ただ、呼吸を飲む音を響かせただけ。
「どうした?…いつものようにしてみろよ。俺が、領土争奪戦をしないのが以前と違うというのなら…今日のお前も、いつもと違うんじゃないか?」
どれほど今日は機嫌が悪かったというのだろうか。何気ない問いをしただけのつもりが、ジュピテルの声はどこまでも冷たい。身を捻って逃げることは出来るのかもしれないが、果たしてそのように逃れることはジュピテルの意にそぐわず、かえって機嫌を損ねてしまうかもしれない。
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