第2章 a hostage

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   一瞬だけ身じろぎをしたパラスだったが、どうして良いのか分からず行動不能に陥ってしまう。いつもと違う…といわれても、では、どうすれば良いのか?  困惑が極限に達し、精神的に追いつめられたパラスの瞳にはうっすらと涙が浮かぶ。その潤んだ瞳をジュピテルの方へと向け、無言で許しを乞う表情となるパラス。  「…気色悪い目を俺に向けるな。ま。いつものようにしたくとも、出来ないだろうがな。こうして肩に直に接触してしまえば、お得意の空間転移も簡単にはできまい。視覚だけでなく触覚によっても俺に認識をされちまってはな」  「離して…ください」  「嫌だね。逃げたいんなら、いつものとおり自分から逃げてみろよ」  これは本当にジュピテルなのか?  確かにジュピテルと言えば「独裁者」。このデスシムにおいて「最大領土の領主」として巨大な帝国を築き上げ、その帝王として君臨するPCであり、そのイメージからくる人物像としては、領民への理不尽な圧政と刃向かう者への暴虐の限りを尽くした粛正…それを12人の親衛隊長に命じている冷酷非道な悪役キャラであることに間違いない。しかも、自分に無条件で従わない者に対しては、その者の大事に想っている相手(多くは女性PC)を人質として帝都に幽閉し、無理矢理に意に沿わせるという憎んでも憎みきれない所業をしている。  だが、その最低なイメージとは裏腹に、これまで幽閉した女性PCに対して、暴力を振るうだとか、セクシャルなハラスメント行為に及んでいるという噂は皆無だったはずだ。今のように、女性PCであるパラスにギラつく視線を向け、素肌を晒した肩を素手で直接掴むようなまねをするとは…いったいどうしたことか? ・・・
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