第2章 a hostage

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   セリフの最後の部分は……文字では表現できないが……気の弱い者なら聞いただけで気を失いそうなほどの激しい怒気が込められていた。  その怒気を、さすがに涼しい顔で受け流すというわけにはいかないが、微かに目を細めた程度で受け止めて、パラスだった者は小さく呟く。ドレスチェンジ…と。  悪趣味な程にリアルな死を追求するというテーマを持つデスシム。そのテーマのためにこのデスシム世界は、他のシムタブ型MMORPGとは比較にならないほどのリアル過ぎる世界描画を実現しているが、このドレスチェンジ・コマンドは、何故か例外的に現実とは異なる仕様となっており、それを唱えたプレイヤーの衣服を一瞬にして変更する。  噂では、フェミニストなシステム・デザイナーが、女性が着替え時に無防備な状態となることを不公平だと捉えて採用した仕様だというが。  とにかく、そのコマンドをコールした直後には、さっきまでパラスの顔をしたPCが立っていた場所に、黒いスーツを身に纏った男性PCが立っていた。  不思議なことに、顔までもが別人のそれに変わっていた。まるで、衣服を着替えたかのように。  「何故、気が付いたのですか?」  面白くなさそうに黒スーツが訊く。どうしてジュピテルは、いつも簡単に見破ってしまうのだろうか。今回は、殺気も、悪意も、気取られそうな一切の色を消してパラスを演じていたというのに。  「馬鹿かお前ぇは。気づくも何も、最初から騙されちゃいねぇよ」 ・・・
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