第2章 a hostage

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   しかし、ジュピテルは応えない。男の答えを受けても身じろぎ一つしない。敢えて反応を返さずに、黒スーツに言葉の先を続けさせようというのだろうか。  「ふぅうん。そこで黙りこみましたか。ちょっと、つまらない反応ですね。そこで、取り乱して『パラスなど人質にはならぬわ!』とか、『今ここで殺されたところで、蚊に刺されたほども痛くないわ!』とか……強がるんじゃないかと思ったのですがねぇ。そうしたら、私もより罪悪感なく、このお嬢さんを連れ去ることができたのに」  「……罪悪感など、最初から毛ほども感じていないだろ。テメェは」  「ぁあ。そうか。なるほど!……これは、驚いた。そうか。そこまで。たとえ、私との駆け引きのための虚偽の言葉とはいえ、このお嬢さんが悲しむような誤解される発言は出来なかったと……こういうわけですか!?」  ぴくっ……と、パラスの肩は揺れただろうか。  それとも、そう見えるように黒スーツが肩を揺すっただけなのかもしれない。  パラスは、相変わらず俯いたままで、まるで心を失ったかのように一声も発しない。  にやにやと笑う黒スーツ。  傲岸不遜を画に描いたようなジュピテルが、自分のGOTOSとはいえ単に隷属的に使えさせているだけの女性PCに対して、そのような心細やかな配慮をしようとは。  「今のアナタの姿を、ぜひ12人の親衛隊長さんたちに見せてあげたかったですね。え。もっとも、彼らがここへ来ていたら、見境なく私に攻撃を仕掛けてきていたでしょうから、今頃私はここにはいなかったでしょうがね」 ・・・
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