第2章 a hostage

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   ひょっとしたら、実際にジュピテルは12人の親衛隊長に密かに指示を出し、不意をついてパラスを奪還しようとしていたかもしれない。  黒スーツの今の言葉は、その可能性に対しての牽制の意味でもあった。  そんなことをすれば、即座に転移コマンドで逃げるぞ……という。  しかし、ジュピテルはその挑発にも似た牽制に、ピクリとも表情を変えない。  ただ、黙って黒スーツを睨むだけだ。  「ふふ。まぁ。いいでしょう。とにかく、今の一つをとってみても、このお嬢さんがアナタにとって十分すぎるほどの人質になり得るということの確証ですから。私のここでの目的は、全て果たされました」  宣言にも似た最後の言葉(フレーズ)とともに、黒スーツの表情からそれまでのフザケた色が消える。そして、無意識にだろう。パラスを抱くのとは逆の手の甲で額に滲んだ冷や汗を一度だけ拭った。  彼としても賭だったのだ。読み間違えれば、今頃、ジュピテルに殺されていたかもしれない。いや。実際、あの時、パラスの見た目をしていた自分に向かって、冷酷な視線を投げ、肩を掴み壊さんとしたジュピテルには、正直、非常に大きな恐怖を抱かざるを得なかった。  だが、彼は勝ったのだ。その賭に。  残念ながら、自分がコピーした姿を、パラスであるとジュピテルに誤認させることは叶わなかった。結構、自信があっただけに簡単に見破られ、どころか、エミュレートではなくシミュレートに過ぎないと断じられてしまったことは、それなりにショックではある。が、それは別に良い。手段に過ぎなかったのだから。 ・・・
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