第2章 a hostage

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   いま、実現を成し得たこの状況。この状況を作り出すことだけが今回の目的だったのだから。  正直、ジュピテルが怒り狂い、自分へと襲いかかってくるよりも先に、都合よくパラスが現れてくれるとまでは期待していなかった。  今回は、ジュピテルの表情や態度から、パラスが彼の人質となりうるかどうかだけ探れれば御の字だったのだ。だから、もう一瞬でも早くジュピテルの堪忍袋が決壊し、その内側から暴風が吹き付けてこようものなら、パラスの確保などには拘泥せずにさっさと転移コマンドで逃亡するつもりだった。  まったくもってしてジュピテルは自分がそのような行動に出るなどとは予想していなかったようだから、パラスの確保など時期を見ていつでも出来るからだ。  そう。ジュピテルは油断していたのだ。  いや。油断ではない。ジュピテル自身が、彼にとってのパラスという存在の重みを、完全には理解できていなかったということだ。  先ほどは偉そうに、「テメェは、心は読めても…心を理解することはできねぇ」などと見下すようなことを言ってくれたが、はっ……今の状況を見ればどうだ?心を理解することができていなかったのは、誰あろう、そう口にしたジュピテルの方ではないか。そう、ジュピテルこそが、自分の心を、気持ちを……そこまで深いものだとは理解できていなかったのだろう。  誰かの自由を奪うためにパラスを人質にとっておきながら、そのパラスが自分にとっての人質たり得るとは考えもしなかったのだろう。なんともヌルいことだ。  その結果、敵が標的とするのはジュピテル当人か、又は12人の親衛隊長たちぐらいだと思いこんでいたに違いない。 ・・・
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