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今まで、パラスが逃げ出さなかったことが不思議なぐらい、彼女への監視は薄く、彼女の自由は尊重されていた。ゆえに、人質としてさらうことなど極めて容易。
「……アナタほどの使い手がねぇ。これほど弱みをさらすとは。はっ。愛というやつはこれだから」
目的が完遂された以上、無駄話などせずにさっさとこの場を離脱するべき。
そう思いながらも、思わず黒スーツの口から漏れた捨てゼリフ。
だから、特にジュピテルの反応を期待したものではなかった。
それで、彼は本当に転移コマンドを実行するつもりだったのだ。が、
「愛……などではない」
思いもかけず静かな声でジュピテルから返答があった。
いや。それは、はたして黒スーツに向けての答えだったか？……ジュピテルの目はずっと俯いたままのパラスへと注がれている。
「愛などと言うつもりは……言う資格は俺にはない。パラスには想い人がいる。そして、俺はこの仮想世界に恋愛を求めてやってきたわけではない。俺は自分の理想を叶えるためだけに他者をも踏み台にしている、ただただ我が儘な男だ。……だから、愛などと言う気は毛頭ない」
ぽつりぽつりと語るジュピテル。
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