第2章 a hostage

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   パラスからの反応が返るのを期待しているわけではなかろうが、その言葉は間違いなく彼女に向けられたもののように思われる。  さすがに、今、口を挟んでその言葉を茶化すほどには黒スーツのPCは愚鈍ではない。パラスという人質を得た今、これ以上無用に恨みを買うのは後々の憂いを増すだけだと本能的に悟っていた。  「……それでも俺は、それでも俺はパラスを必要としている。この俺の我が儘な理想を実現するためには、パラス。お前が必要だ」  言葉の裏など読んではいけない。必要がなくなったら用なしになる……だとか、必要なだけでそれ以外の感情は一ミリたりとも持ち合わせがない……とか、そういう濁った意味は、ジュピテルの言葉には微塵も含まれていない。その証拠に、  「必要だから、必ず助けに行く。いや。再び、この手に奪い返しに行く。その男の手にも、お前の想い人のところへも置いておくつもりはない。…だから、俺がどれだけ危険な目に遭おうと、その結果、『死』という間抜けなエンディングを迎えようと、それは、お前が人質になった所為(せい)ではない。全ては、俺自身の我が儘だ」  ジュピテルの言葉には、パラスを思いやる誠実さが溢れていた。  ひょっとしたら、今も俯いたままのパラスは、ジュピテルという束縛の檻から解放される喜びを噛みしめているだけなのかもしれない。ひょっとしたら、この黒スーツがこのあと自分の想い人のところへと連れて行ってくれるかもしれないという期待に溢れているのかもしれない。 ・・・
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