プロローグ

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「出て行けと……?」 仁王立ちする中年のふくよか(極めてソフトに言った場合)な女性を見ながら、私は途切れるほどか細い声でそう言葉を捻りだす。 「そういう事だよ。家賃何ヶ月滞納してるんだい」 この廃れた様なボロアパートの錆びて抜け落ちそうな階段の前で、 仁王はタバコを勢いよく吹かしそう吐き捨てる。 「はい。すいません。返事のしようもありません」 私の現在手元にある残金は120フラン程。 自販で缶コーヒーを買えば終わりという状況。 仁王もとい大家の奥さんに、素直に頭を下げる。 まぁ払わない私が悪いし。 「大体月3万の家賃ぐらいちゃんと払いな!! 苦学生ってのは知ってるけども、流石にこっちだってボランティアじゃ無いんだ。悪いが出てってくれ」 「はい……」 実際、今現在バイトをやりながらなんとか高校へ通っている。 まぁ自分の蒔いた種ではあるけど。 「アンタ、実家はガリアだったっけ?」 「ええ。でも仕方ないのでガリアへ帰ります」 王政ガリアはここシェラン連邦王国の北西に位置する国である。 「フランドルまで750km。夏でよかったなぁ……」 フランドルはガリア南部にある地方で、ここシェランの首都ミネルヴァからは750km程ある。 「はぁ…… ホント頭の回る子だねぇ。わかった。だけど駄馬だよ」
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