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『どうしたの?』
慌てて声をかけても返事はなく、辺りは静まり返っているだけ。
岩場の隙間に落ちたのだと気付くのにそう時間はかからなかった。
どうしよう……? 怪我でもしていたら……!
瞬時に湧いた不安に何度も声をあげてみるのに、ただただ静かに影が延びていくだけ。
動けない自分が悔しくて仕方なかった。
大切な友達なのに何も出来ない自分が歯痒くて歯痒くて、思わず溢れそうになった涙を必死に堪えた。
助けなきゃ。
そうは思っても辺りは人気すらない。
私にも足が……足があれば──
奥歯をぎゅっと噛み締め触れていた岩を無意識にきつく掴む。
か細い音をたて割れた爪の痛みが頭をはっとさせて、漸くこの首に掛かっていた物を思い出した。
古い紐の先についたのは小さな瓶。
オババにもらった海の秘薬。
ヒトになれる、秘薬──!
それを手にした瞬間、オババの声が頭に響いた気がした。
けれどもう、迷うことはなかった。
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