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菱川浄児(ひしかわじょうじ)が率いる突撃隊5名がジグザグに身体(からだ)を振り、攻撃用台車に駆(か)け寄っていく。
「同じリズムで動くな。狙われるぞ」
ジョージが叫んでいる。硬直した死体を盾(たて)に用い、後方に狙撃手を載せた右側面の台車までは80メートルほどの距離がある。タツオは塹壕(ざんごう)中央から手鏡をさしだし、戦場の動きを観察していた。絶えず動き続ける突撃隊を捉(とら)えるのは、優秀なスナイパーでも困難なようだ。今のところ、被弾はない。援護の弾幕を張っているので、狙撃手も盾から身体を乗りだすことは不可能だった。
ジョージのステップワークはプロバスケットボールの選手のようだ。軽やかだが、敵の予測を許さない。先ほどの狙撃で左手が使えないので、右手に口径9ミリの77式小銃をさげている。タツオはもうハンドガンの力を信じていなかった。あれはせいぜい10メートルまで近づかなければ、当てることは困難だ。
「クニ、ジョージを助けてやってくれ」
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