22人が本棚に入れています
本棚に追加
『…あー……羽石』
「はい」
谷崎が私の事を『羽石』と呼ぶ時は、
だいたいいつも真面目な話をする時。
と、同時に、こいつが珍しく真面目である証拠。
7年も同じ職場で働いてると、嫌でもこうゆうのがすぐに分かってしまって、
無意識に身構える癖がついてしまった。
数回目を泳がせて、スッ、と酸素を吸った谷崎の口から出てきた言葉は……
『この前…風間と話してなかった?』
「…いつですか。」
『え?この前だよ』
「………い・つ、ですか?」
『ちょっ…怒るなって!…えっと…確か…羽石が珍しくミスした日だったかな……あっ!睨まないでね!汗』
なんでわざわざそれを言うかな…バカなの?サルなの?
「…話しましたけど、それがどうかしましたか。」
『やっぱり!』
「………それが、どうかしましたか?」
『あっいや!!べつに!!何でもないから!!』
「…」
え、何、それだけ?
(…少なからずもコイツ相手に緊張した私が馬鹿だったみたいね)
『あー!いや本当にこの料理美味いなー!』なんて目の前で猿芝居を始めたサル…じゃなかった。谷崎。
料理って言うかそれ飾りだから。ルッコラだから。
(まさかコイツ…)
「もしかして今、私がミスした事を遠回しに『いやいやいや待て!!!違う!そんなんじゃないから!!!違うから!!!』
馬鹿みたいに大きな声を張り上げながら、立ち上がった谷崎。
無論、周りの視線を集めることになった。
(あー、五月蝿い。鼓膜が破れたらどう責任とってくれるのよ)
「…部長、静かにして頂けますか。」
『……スミマセン』
シュン、と、しおらしくなったサルは黙ってディナーを食べ始めた。
(…)
(…ミス、か。)
あの日のミス。
私の初めて犯したミスは、
まだ心の中に重くのしかかっている。
思い出すとまた落ち込みそう。
(引きずるのは良くないって…私が一番分かってるのに。)
それでも私のプライドは
すぐに忘れてはくれないみたい。
そうゆう所が、たまに自分でも嫌になる。
最初のコメントを投稿しよう!