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カタカタカタ、カタカタ、カチッ
「ふー……」
パソコンの画面から目を離す。
気がつけば時刻は既に深夜。
オフィスに残るのは俺一人だった。
ずっとパソコンを見つめていたため、目がチカチカする。
目薬をさして再度画面に向き合うも…だめだ、集中できない。
「…今日はもう限界、かな…」
よし、帰ろう。
明日提出の分は既に終わっているし、今やっているのはこの前仕事を休んだ子の分である。
別に今日やらなければいけない訳じゃない。
そう、だからもっと早く帰ることもできたのだが……
「…はー…」
だめだ、疲れた、もう考えたくない。
オフィスに鍵をかけて外に出る。
風が冷たい。
コートの襟を立て、マフラーに顔を埋めるようにして歩き出す。
タクシーを拾おう 。
タクシー乗り場がある駅前を目指しながら、暗い夜道を黙々と歩く。
だけど、何故かそこまで道は暗すぎず。
ああ、そうか、今日は満月なのか。
空を見上げて驚いた。とても明るい。
まるで電球のような明るさの月がそこにはあった。
星もよく見える。
…あの時も、こんな夜、こんな月だった。
『…ほら、あれが……だよ…』
そう、あの星も光っていた。
『…ケイ…俺は……』
懐かしい日々、懐かしい声が溢れるように思い出される。
あの時の星空とあの人の指先。
頬を温かいものが伝った。
「…しまった…」
考えないようにしていたのに。
忘れる為に何かに没頭して毎日を過ごしていたのに…今日だって。
「……だめだ…考えるな…」
そうしなければ止まらなくなる。
あなたへの、俺の…
『…ケイ』
この想いが。
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