第1話

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「おいおい、八雲くん。君は何度言ったら同じミスを繰り返さなくなってくれるのかな?」 何処と無くカビ臭さが鼻にたつ古ぼけた店内の一角。 本棚から雪崩のように落ちて出来上がった古本の山の下でノビている僕の耳に届いた呆れた様で気怠そうな女性の声。 その声を聞くたびに僕は自分の不幸体質とその人を恨まずにはいられない。 「まったく、どうして今夜使う予定の“本”を準備しておいてくれと頼んだだけなのに、こうも余計な仕事を増やしてくれるのか」 嫌味たっぷりの言葉が僕の心を削っていくのと同時に、体にのし掛かっている本の重さが、どんどん軽くなっていく。 「これじゃない、これでもない。えーと……あ、これ、ここにあったんだ」 古い本の下敷きにされている僕を助けてくれているのかと思えば、どうやら僕に頼んだ探し物を自分で探しているだけのようだ。 確かに本に埋もれてしまうという状況を作ったのは僕の不注意が原因だけど。 「ふむふむ……あ。いかん、いかん。ついつい、読み耽るところだった」 探し物ついでで本に集中する前に、少しは僕の心配してくれても良いんじゃないだろうか? だいたい本が倒れてきたのも普段この人が本棚の上にバランス悪く本を積み重ねているからだし、加えて通路にも本を山のように積み重ねたままにしていることが、そもそもの原因で、例え、僕じゃなくても、これだけ散らかってれば、誰がやってもーー
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