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「ふむ。それだけ不機嫌そうな顔をしてれば、特に異常はないみたいだね」
「…………心配そうな口ぶりで、狐みたいに嫌味たっぷりな笑顔するのやめてもらえますか小泉さん?」
逆さに写る視界に現れた和装の女性に対して、僕は一呼吸置いてから素直な言葉を口にした。
そんな僕に対して和装の女性は、呆れたように頬杖をつきながら目を細める。
「だったら君は自分の雇い主をもう少し敬った方がいいんじゃないかな?」
彼女のその台詞を聞くたびに僕は自分自身を恨む。
あの日、この人と出会ってしまった自分の不幸を。
「それに君には大きな貸しがある。それを全部返してもらうまで、この契約は解消されないよ」
この人のケラケラと音のするような笑顔を見るたびに、僕はあの日の浅はかな決断を強く後悔する。
「そんな顔しても、駄目なもんは駄目だよ八雲くん」
そこで彼女ーー小泉さんは手に持っていた本で肩を叩きながら、容姿と不釣り合いな碧い眼を光らせ、僕にとって呪いとも思える決め台詞を口にするのだ。
「地獄の沙汰も金次第だよ、八雲くん」
正直、意味がわからない事この上ない台詞なわけだけれど。
悲しいかな。
僕と古泉さんの関係とは、この一言に集約されると言って過言ではない。
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