日記 2

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「どういう感じの本が好きなんですか?」 「そういうことも考慮していただかなくて大丈夫です。 例えば私が、どんでん返しがある本が好きだと言って、あなたがそのような本を勧めたら、私はそれを読むとき、どんでん返しがあるって解った上でその本を読むことになります。 それほどつまらないことも無いでしょう?」 もっともだ。 それでも、少し屁理屈を言ってみたくなった。 「でも、それを聞いて敢えてどんでん返しの無い本を勧めるかもしれないですよ。 そしたら、どんでん返しが無いことがどんでん返しになります」 「そうですね」 その人も、小さく笑ってくれた。 久々に変わった人と会話ができて楽しいのはいいのだが、如何せん勧められる本が思い当たらない。 普段は本を全く読まないから、せいぜい、中学生の時の夏休みの宿題で読んだ本ぐらいしかレパートリーが無い。 そんな奴が古本屋で働くなと言われればそれまでなのだが、雇った方が悪いと言えばそれまでのはずだ。 この変わった客には好印象を抱いていたため、適当な本を勧めることもしたくなかった。 ただ、なんとなく印象として、この人は一般的に言うような人気な本は好みではないのかと思った。 そこで、もはや覚えていないくらいタイトルが長かったのだが、誰も手に取らなそうな本を選んだ。 「これ、きっと面白いですよ」 一応保険として、自分は全く本を読まないし、この本に関してもタイトルだけで選んだと説明した。 それでもその人は、「ありがとうございます。じゃあ、これをお願いします」と、迷うことなく、笑顔で私に本を手渡してきたのだ。 一瞬、自分がこの店で働いることを忘れて、何故本を手渡されたのかが解らなかった。 その本を受け取ってレジに戻り、会計を済ませると、その人はきちんと頭を下げて礼を言い、帰っていった。 本を勧める時は気にしていなかったが、レジを打って、その本が八百円もすると知り、少し申し訳なく思った。
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