日記 2

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三日後に、その変わった客はまた現れた。 とびっきりの笑顔でレジまでやってきて、こう言った。 「勧めていただいた本、たいへん面白かったです。私からあなたへお勧めします」 この前私が勧めた、寿限無のようにタイトルの長い本を、その人は差し出してきた。どうやら今回は、古本屋の店員としてではなく、読者として手渡されたみたいだ。 「ありがとうございます。今度読んでみます」 読むかどうかはわからないが、一応社交辞令とお礼を言って、その本を受け取った。 「それで、またおすすめの本を教えていただきたいんですが…」 「おすすめと言われても、前回みたいに、タイトルとか表紙とかで選ぶことしか私にはできませんが」 「それで大丈夫です」 こんな寂れた古本屋には似合わない、相変わらずの笑顔で言われてしまうと、断ることもできない。 結局、また背表紙から溢れんばかりのタイトルの長さの本を探し、それを勧めた。 この人は、どうやら昨日も店に来たらしいのだが、私がいなかったために何も買わずに帰ってしまったと言う。 私がおすすめする本を買いたいのだとか。
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