日記 2

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そこで、私がいない時でもおすすめの本を買えるように、特定の場所に、私がおすすめする本を置いておくことにした。 二階の小説コーナーの隅の方に、著者の名前順で小説が置かれているところがあるのだが、場所が酷いのもあって、ほとんど人が寄り付かない。 そこのさらに隅の方の、名前が『わ』から始まる著者の本の棚に、光沢のある明るい紫色の背表紙をした、心理学の本がある。 バイトを始めた頃から間違ってその場所にある上、誰も位置を直さない。 私も当然、その本の配置が間違っていることは知っているが、あんな色で心理学の本と言われても、触る気さえ起きない。 そんな色だ。 ただ、目印としては使えるし、その本が移動されることや、誰かに買われる心配もほぼないだろう。 その隣には、これもまたいつまで経っても買われない、いかにもB級スプラッター小説のタイトルの本がある。 私は、その紫色の心理学の本と、スプラッター小説の間に、おすすめの本を置いておくことを、伝えた。 それから、私がバイトに入ると、その前のバイトの日に置いておいたおすすめの本が無くなっていることは多々あったし、また、私がバイトしている時に、あのお馴染みの笑顔で直接レジまでやってきて、最初の頃のように、直接本を手渡すこともあった。 私もたまには、おすすめし返された本を読もうと試みたこともあった。 この客の他の人には無い雰囲気に惹かれて、プライベートでも会うことが何度かあった。 その人は色々と私について訊いてくるのだが、私は秘密主義だということもあり、基本的に受け流してばかりいた。 いくら気になる相手だとはいえ、自分の生き方を変えるつもりは無かった。
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