日記 1

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これは、誰にも見られないという前提で書いているのだから、少し秘密を明かして差し上げようかと思う。 差し上げようとはいえ、誰に向けて言っているわけでもない。    自宅であるマンションの裏を少し先に行ったところから、辺り一帯が森林で、その奥深くに誰も訪れない神社がある。 その神社へと続く、森の中の石段がお気に入りだ。 夏になると、石段の周りの木々で虫が鳴いているのだが、その石段を飛び跳ねるようにして上がると、足と石が奏でる音が、なんだか自分の身体の中だけを駆け抜けるような不思議な感覚に追われて、周りのやかましい虫の声が聞こえなくなる。 それがどれだけ気持ちのいいことか、理解出来ないと思う。 しつこいようだが、それがまた気持ちがいいのだ。 数字で表す気も失せる程の数の虫の鳴き声を、石段を上っていくだけで掻き消せる。 周りに人がいたとしても、その人たちには解らない。 石段を上っている本人でなければ、そしてその人が私でなければ意味がない。
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