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エレベーター・ボーイと初めて出会った日から、もう三週間は経っただろうか。
残業続きの嫌な月末月初がまたやってきて、一日に一階と六階を往復することもぐんと増えてきた。
相変わらず幽霊くんは午後三時以降にやってきて、私が一人になると声をかけてくる毎日(ちなみに、平日の面会時間は午後三時から八時まで)。
ちょっとした口喧嘩になったりならなかったりもしょっちゅうで、顔を合わせたくなんかない時は、意地でも階段を使ってみせた。
それでも観念して、面会終了時間頃、数時間ぶりにエレベーターに乗り込めば、にやりと性格悪そうに私を見上げる少年の茶色い瞳。
「もう降参?」なんか言ってくれちゃって、ほんとにいやあながきんちょだこと。
その日の私は最悪の気分だった。
病院を職場にする以上は、人の命の終わりを間近に感じることをどうしても避けることができない。
助かる命が大半だけど、中にはそうじゃないことだってある。
珍しく心配そうに「どうしたの?」と声をかけてきた少年に、私はそれまで強張ったままだった身体を解きたい一心で、行き先のボタンも押さずに、閉じたままの動かない箱の中で背中を向けたまま口を開いた。
「コードブルーがかかったの、知ってるでしょ?」
背後から、わずかに戸惑った気配がした。
もしかしたら彼はその放送を聞いていないのかもしれない。エレベーターにまで館内放送のスピーカーはついていない。それでも私は続けた。
「あれね、リハビリ室からだったでしょう。六階の患者さんだったの。リハビリに行くときまではね、すごく元気におしゃべりしてたんだって。それなのに、行って十分もしないうちに突然倒れたって……肺に血栓が飛んじゃったってはなし」
「……そうなんだ」
エレベーターは動く気配がない。
誰かが他の階でボタンを押せば、すぐにでも動きだすだろうけど、それがないから私もついこんなことまで言ってしまった。
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