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「この間もあったでしょ、コードブルー。それでね、私思ったの。こんなこと言ったら先生や看護師さんに怒られるのかもしれないけど、まるでコードブルーって、人の死を呼ぶ呪文みたい――」
「違う!」
突然の怒鳴り声に、私は思わずびっくりして少年を振り向いた。
彼は顔を赤くして怒っていた。
なんだかいつもよりも、身体がはっきり見えている気がする。本気で怒ると、今まで消えて見えなかった足もとまで映るようになるらしい。
「あれは、人の命を助ける信号だ!」
その時、ふいに扉が開いた。乗り込んでくる人は誰もいない。
怖くなってとっさにエレベーターから出ようとした私の後ろで、少年は打って変わって静かにこう言った。
「明日、待ってるから」
え?
振り返ってももう誰もいない。
怒ったエレベーター・ボーイは、またも煙のように消えてしまった。
少年の言う次の日は、結局気まずさが勝って私は一度もエレベーターを使わなかった。仕事が終わったのも、夜の九時頃。面会時間を守る幽霊少年にはもう顔を合わすこともない時間だ。
いやに緊張していた私はほっと安堵してエレベーターに今日初めて乗り込むと、誰もいない箱の中に、折り畳まれた一枚の白い紙が落ちていることに気がついた。
古崎かなえ様
僕の姿が見えるキミにお願いがあります。
明日の三時過ぎ、このエレベーターで待っています。さまよえる幽霊を助けてくれる気がもしあったら、どうか一人で来てください。僕はキミが来てくれるまでずっと待っているつもりです。
ELEVATOR BOY
追記
残業ばかりしないで、もうそろそろ帰ってもいいんじゃないかな。
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