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古崎かなえは私の名前だ。
『ELEVATOR BOY』なんて名前をつけて私宛に手紙を書くなんて、そんなのはあの幽霊少年以外にありえない。
「……がきんちょ幽霊のくせに」
私は丁寧に手紙をたたんで、ポケットにしまった。
「もし」なんて書いておきながら、「ずっと待ってる」って、ずるいにもほどがある。明日は階段を使うわけにはいかなくなっちゃったじゃない。
約束の翌日午後三時。
私はどうにか都合をつけて、エレベーターに乗り込んだ。
午後の三時といったら、平日の面会開始時間だから、いつもなら一階から上がってくる面会者たちが多い。だけど、その日は誰もまだエレベーターを使う様子がなくて、私が一人で乗り込むと、扉が閉まった後の箱はまったく動かないままだった。
「……ねえ、約束どおりちゃんと来たよ」
私は何もない頭上を見上げるようにしておそるおそる言った。
「うん、待ってた」
後ろで聞きなれた子どもの声がする。「ありがとう」
「お願いってなに? できないお願いは受け付けられないからね」
ふふっと少年は笑う。
「キミならできるよ。――僕さ、いい加減幽霊のままでいるのも飽きちゃったし、そろそろ成仏でもしようかと思ってさ」
だから協力してくれない?
思いがけないその言葉に、目を丸くして少年の姿を見ると、彼はいつにもましてはっきりした状態で姿を現していた。
「成仏、できるの?」と私。
「そりゃ、まあ。僕はキミが言うには幽霊ってやつですから」と少年。
「どうやって? やっぱり、何か未練があったりするんだ」
「まあ、そんなとこ」
少年は軽く流して教えてはくれない。
「私はどうすればいいの?」
「その前に、訊いてもいい?」
真剣な声に、思わず私も緊張する。「な、なに?」
「あの時、どうして僕の後をついてきたの?」
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