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あの時ってどの時? そもそも後をついたことなんて一度もないし、と思ってぱちりと瞬きをすると、「なんでもないや」と少年はごまかすように笑って、続けた。
「会いたい子がいるんだ。その子がいる病室まで、連れていってくれればいいんだけど」
「一人で行けばいいじゃない」
「だってほら、僕地縛霊ですから」
違うんじゃなかったの。そう返そうと思ったけど、なんだか言葉が出てこなくなってしまって、私は小さく肩を落とすとさっきと同じことをもう一度訊いた。
「その会いたい子に会えたら、成仏できるんだ?」
私の声のトーンが微妙に下がったのを、この生意気にも空気が読める幽霊少年は敏感に察してしまったのかもしれない。ちょっと意外そうな感じで少年は私を見つめて、答える。
「たぶんね」
それから彼はにこり笑った。
「どうしても会いたいんだ。でも、キミが嫌だって言うんなら、やめておくよ。僕はもうちょっとここにいようと思う。幽霊でいるのも、まあ、悪くはないなって思えるようになってきたし」
そんなこと、そんな悲しそうな笑顔で言わないでよ。ここまで言われちゃったら、ノーなんて答えられないに決まってるじゃない。
私は、今では足もとまで姿が見えるようになった少年から、くるりと背を向けると閉じた扉を見つめながら息を吸った。
「せっかく成仏できるんなら、私だって協力するよ。嫌だなんて言えないでしょうよ。その子がいるのはどの病棟? 小児科病棟でいい?」
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