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コードブルー、コードブルー
救急治療室、お願いします
「誰か! 誰か先生呼んでくれ! 息がないんだ! 看護師さん、早く来てくれ!」
誰かが必死に叫んでいる。
見れば、倒れた女性の肩を叩いて、無我夢中で呼びかける男性の姿。
「大丈夫ですか、わかりますか」――だけど彼女は目を覚まさない。
そのうち、白衣姿の若い先生がやってきて、看護師さんが飛び出してきて、廊下は人だかり。
AED(自動体外式除細動器)が運ばれてきて、なにやらごちゃごちゃ説明を読みあげる音声と、飛んでくる怒号と、バタバタと駆ける足音と――それらを全部、人ごとのように見ている私。
すぐそばの救急治療室に運ばれた女性を見送って、まもなく聞こえるコードブルーの緊急放送に震えた私は、隣で呆然と立ち尽くす彼の左腕をつかんで、それから離した。
閉められた扉を見つめた青年の目から涙がひとつ流れて落ちたのだ。
続々とやってくるドクターの波にのまれて、私はふわふわその場を離れる。
立ち尽くしていた青年も、まくったYシャツの袖で顔を拭うと、黒革の鞄を持ち直して扉に背を向けた。
そうして彼は、エレベーターに向かって歩く。
ああ、ちょっと待って。
見つけてくれてありがとう。
助けてくれてありがとう。
ただそれを伝えたくて、私は彼の後を追った。
寸前でエレベーターの扉は閉じてしまって、急いで私はボタンを押す。
ガシャンと、ともう一度開いた扉に乗り込むと、見回した箱の中には誰の姿も見あたらなかった。
あの人は何階に行ったのだろう。
会ってお礼を言わなくちゃ。
このエレベーターで待っていたら、きっとそのうち会えるはず。
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