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目を開けたら、真っ白な昼の光があふれていた。
「ああ、まさかこんなことが――かなえ! かなちゃん! わかる?」
すぐ目の前に、母の特別大きな顔。あまりにも泣きそうな顔で笑うから、私もつられて口元がにやけてしまった。
母に続いて、父の陽に焼けた顔。「かなえ」と呼んで、それから前髪を撫でてくれる。
「篠宮さん、どうもありがとう。本当にありがとうございました。信じて良かった、あなたがいてくれたからかなえも――」
母の声に、「いえ」と静かに笑う声。
その声につられ、私は酸素のチューブの向こうを見上げて、それから枕の位置をちょっと変えると、つぶやいた。
「……ヒロト君?」
すると気づいたYシャツ姿の青年が、嬉しそうに微笑み返して、
「具合はいかがですか」
と、妙に大人っぽく言うものだから、私もついつい顔がほころんでしまう。
「かなちゃん、こちらね、篠宮さんっていって、あなたのこといろいろ助けて下さった方なの」
そんなこと、わかってる。軽く頷いた私に、「篠宮さん」は答えた。
「はじめまして、かなえさん。篠宮裕人といいます」
はじめまして。
私も答えるけれど、しばらく使わなかった喉はうまいこと声が出てくれなくて、結局何を言ってるのかわからないまま。
けど、右手を持ち上げれば、気づいた彼は握手をするように左手で握りしめてくれて、その時になってようやく私は、さっきまで手がすり抜けてしまっていたのは、本当は私の手の方が透けていたからだということに気がついた。
笑った私に、同じく声を上げて笑う彼。
それからちょっと顔を近づけて。
「おかえり」
だからあんまり残業ばっかりしないで帰りなよって言ったじゃないか。彼は言った。
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